2018年5月4日金曜日

2018年5月2日(水)20:00 明治安田生命J1リーグ第12節 サガン鳥栖vs北海道コンサドーレ札幌 ~冒険の合間に実験~

0.プレビュー

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、石川直樹、福森晃斗、MF駒井善成、宮澤裕樹、深井一希、菅大輝、早坂良太、宮吉拓実、FW内村圭宏。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF濱大耀、MF兵藤慎剛、ジュリーニョ、白井康介、荒野拓馬。前節の記事で「ターンオーバーしないのか」と書いたところ、得意の3枚替えで応えてくれたミシャであった。出場停止処分のキム ミンテのポジションには宮澤が入る可能性も示唆されていたが、順当に石川が中央、福森が左となっている。稲本は試合直前に腰痛を発症し、ベンチメンバーから外れた。
 サガン鳥栖のスターティングメンバーは3-1-4-2、GK権田修一、DF小林祐三、キム ミンヒョク、鄭昇玄、MF藤田優人、福田晃斗、高橋義希、原川力、吉田豊、FW安庸佑、小野裕二。サブメンバーはGK高丘陽平、DF三丸拡、高橋祐治、MF河野広貴、加藤恒平、水野晃樹、FW田川亨介。試合前の時点で2勝2分7敗、勝ち点8で17位に沈む。谷口、池田、ビクトル イバルボ、趙東建が負傷離脱中。前節(アウェイのガンバ大阪戦)から中2日ということもあり、最終ラインは高橋祐治に変えて小林、中盤は高橋秀人に変えて福田、前線で田川に変えて安庸佑をスタメン起用している。


1.札幌のボール保持攻撃と鳥栖の対応


1.1 鳥栖は基本はリトリート


 試合後、フィッカデンティのコメントに「ただがむしゃらに頑張るのではなく戦術的な準備をしてきた(それだけに、結果が出なくて残念だ)」とあったが、鳥栖の"準備"は、中2日ということもあって基本的には省エネを意識した試合運びだった。
 札幌がボールを保持したときの鳥栖のシステム上の噛み合わせは以下の通り。2トップが中央を切り、サイドに迂回させると中盤の左右を担う原川と福田がスライドして対応する。最終ラインは札幌の5トップに対して数的同数以上を維持する。仮に1枚が釣り出された場合、中盤3枚の中央に入る高橋が最終ラインに加わる。
システムの噛み合わせ

1.2 たまにハイプレス


 この噛み合わせを意識して、札幌のゴールキックの際にハイプレスを敢行することもあったが、体力的な問題もあってか限定的な運用にとどまっている。あくまでポーズというか、「簡単には繋がせないぞ」という姿勢を見せておいて、札幌のミスを誘えば儲けもの、突破されたらすぐに戻ってブロックを作ることがより重要な約束事として位置づけられていた。ただ札幌も連戦が続く中で、マンマークで当たられると結構厳しく、サイドに追いやられて左足を切られた福森のところや、ク ソンユンが処理せざるを得ないケースで何度か鳥栖がボール回収に成功していた。
噛み合わせを活かしてゴールキック等ではハイプレスを仕掛ける

1.3 札幌の右サイドからの侵入

1)ボール周辺のスペースを圧縮


序盤、札幌は鳥栖の2トップ脇から鳥栖陣内への侵入を試みる。これは進藤サイド(右)、福森サイド(左)であまり偏りがなく行われていた。
 進藤サイドから侵入したときの構図を見ると、鳥栖は先述の通り原川が進藤に対して出ていく。これに連動して、2トップの小野と安が進藤から見て内側でサポートする選手…図では石川と宮澤を切るようにボールサイドに寄せていく。中盤の高橋と福田はボールサイドにスライドして進藤に近いゾーンから守っていく…という具合にイタリア人監督らしいボールの位置を基準としたゾーン守備で対抗する。
進藤が1列目を越えるとスペースを圧縮して対抗

2)ミシャアタックで対抗


 宮澤や石川を切られている進藤はサイドに追いやられた状態で、バックパスや横パスによる攻撃のやり直しが難しい状況に置かれる。ただ、やり直しができないならばとりあえず縦にパスを出してみよう、という考え方は当然あって、プレシーズンのトレーニングマッチでもひたすらこの位置から斜めのパスを出しまくって(失敗しまくって)いた進藤は、それを思い出すかのように斜め方向へのパスを試みる。
 ミシャ式ではこの斜めのパスがスイッチとなって、パスを受ける選手、その落としを受ける選手、裏に走る選手を用意して収縮したディフェンスの裏を突く形を持っている。トレーニングマッチではことごとく相手のカウンターの起点になっていたため開幕後の実戦では封印されたこのパターンを、図のように内村が裏に走り、早坂と宮吉が楔を受けるポジションを取って繰り出していくと、基本的に鳥栖は数的同数以上で対応しているため、裏を狙う内村に渡った場面は殆どなかった。ただ処理しきれなったセカンドボールを周辺の選手(宮澤や駒井)が拾って二次攻撃に繋げることは何度かできていた。
進藤の楔をスイッチとしてミシャアタックを仕掛ける

 しかし札幌は19分、内村が負傷退場し兵藤と交代。早坂がトップに入るが、裏への動き出しを得意とする内村が抜けたことで札幌は鳥栖の最終ライン裏を取るアクションが明らかに減る。菅が左サイドから狙ったりと、全くゼロではなかったが、出し手とタイミングが合わない場面が多かった。
19分~

3)鳥栖のカウンター


 逆にこの状況から鳥栖がセカンドボールを拾うと、迅速にカウンターに移行する。進藤をサイドに追い詰めた局面で、鳥栖の2トップは札幌の右、鳥栖の左サイドに2人とも寄った位置にいるが、この位置関係をそのまま利用してサイドを突き、可能であれば2人でシュートまでもっていく。小野は元々左サイドが得意で、左利きの安もどちらかというと順足サイドの方がシュートまでの動作がスムーズだった(といいつつも、先制点は逆足で決めたが)。

1.4 札幌の左サイド攻撃

1)福森を使った実験


 札幌左サイドからの攻撃も、基本的な構造と鳥栖の約束事は同じ。ただイレギュラーになっていたのが、札幌が何度か見せていた、福森を1列上げたポジションに配してからのセット攻撃への対応だった。
 3分過ぎに1度目の"実験"が試行され、前半何度か同じ形が作られるのだが、福森が鳥栖の2列目(中盤3枚)と同じ高さまでポジションを上げた状態を作り、最終ラインは進藤、石川と深井もしくは宮澤で完全に3枚にする。
福森を高い位置に置く

 恐らくミシャは福森の攻撃性能を活かすためには、最終ラインに固定しておくことやCBとしての守備タスクを与えたままだと勿体ないと考えているのだと予想する。それが前節の中盤センターでの起用だったり、左右非対称な形にして少しでも高い位置に置いたり…といった、これまで見られてきたアプローチに繋がっている。

2)深井の攻撃参加


 ただ、前節仙台戦だけでなく、各チームとも福森がキープレイヤーだとの認識は当然広まっており、鳥栖も福森が曖昧なポジションを取っても必ず福田か藤田が寄せて、簡単に前に蹴らせないように対応していた。
 するとその副作用ではないが、鳥栖の2列目が福森よりも後ろ、1列目が札幌最終ラインと対峙する構図になると、図のように鳥栖の1列目~2列目の間が空きやすくなり、福森→宮澤(もしくは深井)の横パスがしばしば成功する。札幌はこの位置に、前半開始直後は宮澤が出てくることが多かったが、30分過ぎころから深井の攻撃参加も目立つようになっていて、前を向いて受けられるスペースを察知した深井は宮澤以上に縦方向にボールを動かすプレーを仕掛けていくようになる。
福森の位置まで2列目が後退するので鳥栖のFW~MF間を狙う

 札幌の前半最大の決定機だった37分の福森のフリーキックも、この構図から前線に飛び出していった深井の攻撃参加からファウルを得たものだった。

2.鳥栖のボール保持攻撃と札幌の対応


 鳥栖の攻撃の仕組みも札幌同様、左右で異なっている。一言で言うと、原川はWB吉田の前方のスペースを使う。反対サイドの福田は、WB藤田の後方のスペースに落ちて藤田を押し上げる。この仕組みは2017シーズンに鳥栖と対戦した2試合でも同じような形だった。
原川はWBの前、福田はWBの後ろに移動

 右サイドでは基本的にシンプルに、福田が低い位置で受けた時、藤田は裏を狙ってラインを下げる。福田に対しては札幌は宮吉が対応する。
藤田を走らせる

 どちらかというと鳥栖の攻撃で重要だったのは左サイドからの展開で、吉田が駒井、原川が進藤をゴール前から遠ざける。DFの頭数を削った上で小野がハーフスペース付近で前を向こうとするほか、下のように高橋を経由して右サイドに展開するパターンもあった。勿論、左でタメが作れれば吉田がポジションを上げて仕掛けてくる。35分の吉田のクロス→小野のヘッドは鳥栖の最大の決定機だった。
左で小野か原川が空けば仕掛け、空かなければサイドを変える

3.中央を固めるとサイドが手薄に


 後半頭から札幌は前節に続き、兵藤をトップ下とする2トップに陣形を変更する。
46分~

 狙いは恐らく、中盤、特に鳥栖のアンカー高橋に対して人を合わせること。しかし兵藤をトップ下、前線を2トップにしたことでサイドの高い位置で守備をしていた選手がいなくなる。よって鳥栖はサイドからの前進が前半と比べて容易となった。
兵藤が中央で高橋を見る

 51分の安の先制点は、札幌がゴールキックを繋ごうとしたところに鳥栖のハイプレスがはまった形だった(前半の中盤以降はあまり敢行してこなかったが、ハーフタイムで再び仕掛けてきた格好だった)が、その直前は鳥栖が立て続けにセットプレーを獲得し札幌陣内に攻め入る状況が続いていた。
 その発端となったのは、左サイドのキム・吉田・原川のラインでの前進であり、前半は札幌は右サイドを兵藤と駒井、小野に対しては進藤が付いていくことで守り、同一サイドで簡単に縦に侵入させることを防げていたが、この時は前線を2トップ+トップ下としたことで前半よりも枚数が少なく、手薄になっていて、鳥栖はより容易に縦に運ぶことができていたし、札幌は中盤センターの2枚がサイドに釣り出されていた。
前線が2トップ+トップ下になったのでサイドが1枚減ってしまう

4.消耗戦の明暗

4.1 幾つかの変遷


 62分、鳥栖は負傷した福田に変えて加藤。同時に中盤センターを加藤と高橋の2枚にし、原川を左シャドーとする3-4-2-1に布陣変更する。もっともこれは守備時に小野を最前線に残した5-4-1とすることを念頭に置いた布陣変更だった。
62分~

 札幌もそうだが、攻撃時3-4-2-1の布陣は守備において一般に、シャドーを前に出して守る5-2-3とシャドーを中盤に組み入れた5-4-1の二通りのセットの仕方がある。中2日、6連敗中で先制点を挙げたというシチュエーションもあって、鳥栖は後者、5-4-1でリトリートの姿勢を強くする。
 これを見て札幌はすぐさまジュリーニョを用意、66分に菅と交代する。
66分~

 実はジュリーニョが用意している間、札幌は下のような陣形…いつぞやの浦和のような5-0-5に近い形で攻撃を作っていて、進藤と福森がクロスまで行く形が計3回ほどあった。これが基本になるかと思ったが、この後、70分に鳥栖の田川、73分に札幌の荒野が投入されるまで様々な形が試される。一例として駒井が中盤センターに入り、進藤が大外を担う形等もあったが限定的だったため割愛する。
駒井と菅が中に絞りサイドはDFが使う形

 最終的には一番妥当な形というか、宮澤を最終ラインに落とし、両翼は駒井と福森とする3-4-2-1に落ち着いたのが73分以降だった(65分~75分頃までは、選手交代が相次いだこともあって大きな動きはなかった)。
73分~

4.2 明暗を分けた?田川の守備


 札幌が追いついたのは79分、コーナーキックから、ジュリーニョが持ち前のセットプレーでの得点力を発揮したものだったが、このコーナーキックに至る流れを見ていく。
 76:55は札幌が左サイドから、石川がボールを運んでいくところ。鳥栖は5-4ブロック+ワントップの田川で守っているが、右SHを務める小野は前線で田川と並ぶ形でプレッシャーをかけていたので、石川への寄せが遅れている。
 石川はこの位置からアーリークロスを入れるが、鳥栖DFが大きくクリアしてスローインに。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 スローイン直後の状況が以下77:12だが、田川はボールサイドに寄りすぎていて、しかもスローイン地点よりもかなり前にいるのでボールに関与できるポジションを取れていない。そのため、札幌は鳥栖の5-4-1の「4」の前を自由に使うことができる状況で、図の白円に宮澤が前進して兵藤からの横パスを受け、画面手前の進藤に展開する。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 5-4-1の守備がうまくいかないパターンの一つとして、ワントップだけでは1列目で有効な守備アクションができないため実質2ライン守備になってしまうことがある。ただこの時の田川のように、1枚であってもスペースを埋めることは非常に重要で、この時田川が宮澤の前に立っていれば攻撃を迂回させ、遅れさせることができた。

 迂回させられなかった結果、完全に右サイドでフリーの進藤がこの位置からアーリークロス。この試合初めてターゲットに合ったクロスであり、また札幌のFW(内村・早坂・ジュリーニョ)が初めてバイタルエリアでボールを収めることができたプレーでもあったが、それはこの試合、鳥栖の守備が最もゆるんだタイミングで生まれたものでもあった。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 スコアが1-1となったところで、鳥栖は高橋祐治の交代を用意する。DAZN中継ではフィッカデンティが「3」と指示をした、との情報があったが、恐らく3-1-4-2(中盤3枚)に戻して前線を小野と田川の2トップに、という内容だったと思う。しかしその直後、リスタートから兵藤のスルーパスにジュリーニョが抜け出し、権田との1on1を制して札幌が逆転。まるで都倉のような、脈略のない局面からの得点だったが、結果的にはジュリーニョが一番活きる形…前にスペースがある状態でスピードに乗ることができたのも、この試合で初めてだった。
 高橋祐治はパワープレー要員で投入され、ラスト数分間は鳥栖がパワープレーを敢行するが、凌ぎ切った札幌が勝利。

5.雑感


 連戦で選手は疲労し、戦術練習はできない反面、日程は消化されるので互いの情報は溜まっていく。消耗戦であり情報戦といったところで、札幌は福森の"個"を活かすことが一つのポイントだと考えていたのかもしれない。後半は札幌が何度か形を変えたが、根本的には鳥栖も札幌も90分は持たないコンディションの中で、札幌が逆転できたのは互いのペース配分によるところが大きかったと思う。

2 件のコメント:

  1. やりたいことができていたのは鳥栖の方だと思うんですが、それが結果に結びつかない。FWが壊滅状態でコンサのミスを誘って先制したところまではほぼゲームプラン通りで、ウノゼロで逃げ切るはずが逆転負けですからもし鳥栖がJ2降格となればターニングポイントになりそうな試合になりそうですね。まさかミシャが前線3枚全取っ替えで来るとは思いませんでした。加えて内村が負傷交代ともなればそりゃ攻め手もなくなるってもんで、却って前半は抑えめにと割り切れたのかも知れません。

    福森の左足をどう封じるかを考えるときに仙台は急がせて福森に余裕を与えないというアプローチで臨んできました。福森に自由を与えないのが基本ではあると思うんですが、その時に周りがどうお膳立てするか。今のところは宮澤と深井が気を利かせられるのでいいんですが、もう少しそういう動きができる選手が増えないと放り込みオンリーになるので(それでもジェイや都倉がいれば何とか形にはなるんですが)もうちょっと進化が欲しいところですね。

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    1. そうですね、福森が警戒されて確実に相手を1枚引っ張るなら、特に相手が5-3-2で中盤3枚なら引っ張った反対サイドを使えればいいんですけど、まだそこまでの共通理解には達しないですね。最終的にはユベントスのピルロみたいに、飛び道具のある選手って最優先で消されると思いますので、その選手が活きる形を模索するのも一つのやり方ではありますが、それを逆手に取ったやり方も見いだせるといいと思います。

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