2018年5月17日木曜日

2018年5月13日(日)16:00 明治安田生命J1リーグ第14節 FC東京vs北海道コンサドーレ札幌 ~備えあっての放り込み~

0.プレビュー

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF駒井善成、深井一希、宮澤裕樹、菅大輝、都倉賢、チャナティップ、FWジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF石川直樹、MF兵藤慎剛、ジュリーニョ、早坂良太、荒野拓馬、FW宮吉拓実。三好は累積警告4枚で出場停止。この週、水曜日のルヴァンカップ(ホーム・甲府戦)は期限付き移籍中の金園英学に2ゴールを許す等の内容で0-3で敗れた。例によってシャドーの代役候補(ジュリーニョ、ヘイス、兵藤、宮吉、早坂)はこの試合に軒並み出場しており、疲労度は同程度だったと思われるが、シャドーはこれら候補者からチョイスされず、都倉がスライド、復帰直後のジェイをトップに置く。この二人のスタートからの併用は公式戦では初めてだが、キャンプ中では何度か試されていた。
 FC東京のスターティングメンバーは4-4-2、GK林彰洋、DF室屋成、チャン ヒョンス、森重真人、太田宏介、MF大森晃太郎、橋本拳人、髙萩洋次郎、東慶悟、FWディエゴ オリヴェイラ、永井謙佑。サブメンバーはGK大久保択生、DF吉本一謙、山田将之、MF米本拓司、梶山陽平、橋本拳人、FW前田遼一。リッピ ヴェローゾ。負傷離脱していたチャン ヒョンスがこの試合からスタメンに復帰し、負傷者が出ない限りはリーグ戦はこのメンバーでほぼ固定されている。浦和、仙台、磐田との開幕3戦は2敗1分と出遅れたが、その後10試合は8勝1敗1分と好調を維持しており、特に10試合で20得点と決定力が光る。


1.ジェイの周囲で起きていたこと

1.1 基本構造


 序盤、互いに何度かあったボール保持機会において、よりデザインされたアクションを見せていたのはFC東京の方だった。
 東京は(ウインガーが少ない)Jリーグの典型的な4-4-2というか、SBが攻撃の横幅を担うスタイルであり、そのためにSBが攻撃参加するための時間を作る必要がある。加えて2列目のMFは中央に絞り、SBが攻撃参加する大外のレーンを開けておく。前線のポストプレーなどで時間を作り、サイドに滑走路を用意すればSBが一気に攻撃参加してサイドからの崩しを狙う。
東京の基本構造(2列目が中央に寄る)

 東京は上記のコンセプトを持っているが、札幌は守備時に東京の2列目、大森と東が中央で貰ってタメを作るプレーのみを警戒していればよいのではなく、サイドに流れたり裏に飛び出したりする動きに対しても注意を払う必要がある。
 これについては端的に言うと、①人にマーカーをつける、②スペースを消す(ゾーン基調で守る)の2通りがあるが、基本的にマンマークに慣れている(かつ、それで結果も出している)札幌はこの試合もマンマーク基調の守備を基本として考える。

 これにより札幌の守備の形は必然と決まってくる。東京が前線に4枚を配すので、最終ラインに5枚を残しておく必要がある。となれば、札幌のシャドー、都倉とチャナティップは東京のSBを担当とすることが望ましい。このようにある程度、守備の基準を決めておいて、最終ラインでマークずれが起きないように準備しておく。四方田コーチが好むやり方をこの試合でも採用する。
最終ラインに常に5枚確保すると必然と担当(札幌シャドー⇔東京SB)が決まる

1.2 懸念のエアポケット


 上記1.1に示した図で唯一曖昧になっているのが最前線のジェイの役割。序盤はこのジェイ周辺を起点として東京が札幌の守備を空転させつつ前進することに成功する。
 東京は札幌の守備の基準(先述の通り、シャドーは東京のSBを見ているのでCBに対してプレッシャーを与えてこない)を確認すると、組み立て時にSBを低い位置に置いておくことは不要と判断してSBがポジションを上げ、CB2枚がペナルティエリア幅に開くとともに、中盤センターの1枚(主に橋本)がやや下がった、CBをサポートできる位置取りをする。
札幌の1列目がジェイ1枚なので東京はSBを上げられる

 この時、札幌のFW(ジェイ)の役割は、四方田監督下ではCB2枚の中間ポジションを取り、持ち出しを開始した方のCBに寄せていくことが多かったが、ミシャはFWに対してアンカーポジションの選手(橋本)をまずマークさせることが多くなっている。するとこの構図では、東京のCB2枚とアンカー橋本に対して札幌はジェイ1人となり、ただでさえ守備にあまり積極的ではないジェイだけで対応となると、このエリアは東京がほぼ100%支配できる空間となる。

1.3 森重の持ち出し


 CBがオープンになりやすいことを確認すると、東京は森重とチャン ヒョンスがハーフウェーライン付近まで持ち出してから、前線4枚に縦パスを入れ、SBが攻撃参加するのに必要なタメを作る。
 この時よく見られたものは、永井が札幌CB2枚の間で裏抜けをして2枚を引っ張り、ラインを押し下げると同時に、ディエゴ オリヴェイラが札幌の中盤センター2枚の周辺に登場してポストプレー。その落としを東や高萩、太田が受けるという2トップの縦関係を使った非常にオーソドックスなパターンだった。
ジェイの脇を使って前進してから楔のパスをディエゴが収める

1.4 王へのフォローが更なるずれを生む

1)(事例1)中盤センターがフォローに動くが真ん中を割られてしまう


 札幌は東京の前進を傍観していたわけではなく、東京のCB2枚+橋本・髙萩のユニットを捕まえようとするが、これが特に前半は殆どうまくいっていなかった。
 ↓の6:46は、東京のボール保持に対して、ジェイがアンカーポジションの髙萩を捨ててCB森重に出ていったところ。しかしジェイ1枚でここを抑えることは不可能で、東京が問題なくボールを保持しているが、これを見て深井がサポートに動く(髙萩を捕まえる)。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 しかし深井が加わっても、東京はCB2枚+中盤センター2枚で計4枚。枚数の問題もあれば、ジェイと深井の動きは基本的に連動していないので捕まえることができない。
 そして深井が髙萩と橋本を捕まえようと前に出ると、↓の6:51のように札幌の4枚の2列目のチェーンはちょうど深井が守っていたエリアから分断される。この時、深井の隣を守る都倉はもう少し中央に絞れるとよいのだが、都倉は自身の"担当"であるSB太田への展開を意識して、太田に近づいていくようなポジションをとってしまい、深井のエリアで切られたチェーンを修復できない。
 この綻びを見逃さず、東京が中央から画面奥側のCB森重に展開し、森重からディエゴ オリヴェイラに縦パスが入る。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

2)(事例2)シャドーが動くとサイドでマークが合わなくなる


 では中盤センターの選手ではなくシャドーがジェイをフォローするとどうなるかが、↓の8:10からの展開。直前に札幌のファウルで東京が自陣深くからリスタートするところからこの展開は始まっていて、競り合いに参加していたジェイは帰陣が遅れており、札幌は5-4-1の頂点が欠けているので完全に2ライン守備の5-4ブロックになる。
 この時、都倉は「4」の前方で東京に簡単にボールを持たせることはリスキーだと考え(先の局面のように、森重クラスなら簡単に縦パスを入れてくるから)、ポジションを上げて森重を見れる位置まで移動する。すると都倉はSB太田をケアすることは難しくなるので、札幌は最終ラインにいた駒井も都倉に連動してポジションを上げ、太田をケアすることができる位置をとるが、
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 駒井の背後、大外に流れてきた東がフリーになってしまう。駒井が前進守備で最終ラインにいない時は基本的に隣を守る進藤がスライドすることになっているが、進藤は髙萩の間受けをケアしているので東は完全にフリーになっている。

2.トランジションまでがワンセット

2.1 永井とディエゴの前線守備


 ボールを持っていない時はマンマーク基調で守備をするためどうしても属人的、相手の動きについていく後手の対応になりがちな札幌は、ボールを保持することで試合展開をコントロールしつつ、4-4-2の東京に対するミスマッチを活用して攻撃で圧力をかけていきたい。しかし東京は永井とディエゴ オリヴェイラの前線守備によって、札幌が最終ラインでボールを保持し、ゲームを落ち着かせようとする時間、そしてミシャの十八番、4-1-5の攻撃陣形に可変する時間を与えない。
2トップで札幌の3バックについていく

 それでも札幌が東京2トップに対する3枚(3バック)の優位性を活用して前進を図ると、図のように変化して対応する。2トップにプラスしてSHの1枚は前進し、サイドからの進藤や福森の持ち出しをケアする。更に最終ラインで4vs5と数的不利の状況を解決すべく、ボールサイドのセントラルMFがプレスバックしてCB-SB間をカバーする。これによって、SBの太田と室屋は、札幌のWBに対して後方を気にせず強く出ることができる。
3バックに対してSH、髙萩が最終ラインに加わる

 特に、進藤が持ち上がると髙萩が下がって最終ラインに加わることが多くなるが、都倉は三好と比べて裏抜けを頻繁に行うこともあって、髙萩は頻繁に5バックの一角を構成することになる。

2.2 ジェイの不出来と備え


 過密日程でチーム作りをする時間が十分に与えられていないこともあって、ミシャは今のところ、札幌では選手の特性をそのまま活かすことで勝負している。具体的に言うと、ジェイのボールを収める能力、都倉の走力と裏に抜ける動きである(勿論両者には空中戦のターゲットとしての使い方もある)。この試合は、東京の前線守備によって組み立て役となる札幌最終ラインの選手に時間が与えられなかったこともあって、札幌の攻撃は、こうした駒の特性を使ってそのまま勝負するような局面が多くなる。

1)収まらないジェイ


 東京は札幌の5トップシステムへの対応で東や髙萩が頻繁に動かされるが、ボールのないサイドのMFが中央にスライドすることで最低限の枚数を密度を確保する。この状況で、ジェイは背後から森重やチャン ヒョンス、少し前方で橋本や大森にサンドされるポジションでプレーすることになるが、この日のジェイは試合勘の欠如(による相手選手の認識が不十分や、トラップ等の純粋な精度の低さ)もあったか、ボールを収められず、失うことが非常に多かった。
ジェイに収まらない

2)トランジションを制する準備


  そして以下のミシャのコメントのように、ジェイが潰された後の攻防が前半のポイントの1つになっていた。
--相手の2トップをうまく抑えていました。
われわれは後ろからビルドアップをして攻撃していくチーム。ボールを失えばそこから相手はカウンターを狙ってくる。この試合に向けて選手に伝えたのは、ボールを失った後の守備への切り替え。ボールホルダーに速くプレスをかけること。場合によっては戦術的ファウルで止める。相手に時間とスペースを与えなかったことが、今日はうまくいった。


 「ボールを失った後の守備への切り替え。ボールホルダーに速くプレスをかけること。」とあるが、確かにこの狙いは感じられた。これを実践するには、選手に指示を出すだけではなく、相手のポジティブトランジションを食い止め、トランジションの攻防を制する準備が必要になる。その札幌の準備は、攻撃時に完全に4バックにするのではなく、3バックの3-2-5から開始することで中盤センターに深井と宮澤の2枚を置いておく機会を増やすことだった。

2.3 個に依存する危機管理

1)ネガトラで食い止めきれない理由①


 ただ実際の展開をみていくと、ミシャが持参する札幌のネガティブトランジションは個人の資質に依存したものであって、チームとしては未整備で、東京がその隙を突いて札幌ゴールを脅かす局面もあった。

 ↓の27:59は札幌の宮澤の縦パスを東京が都倉の前でカットしたところ。チャン ヒョンスがインターセプトすると、すかさず深井が「ボールホルダーに速くプレスをかける」を実践していく。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 この深井がチャンヒョンスに寄せ切った時の状況は以下のようになっていて、チャンに深井が寄せることでコースをかなり限定できており、イニエスタのような魔術師ではないチャンの次のプレーは非常に限定されている。
 が、その受け手となる手前の選手(大森)には札幌の選手が寄せていないため、ここで攻撃を食い止めることはできない。この要因は2つあり、一つは攻撃時3-2-5もしくは4-1-5の陣形を作る札幌は、中盤に人が「1」か「2」しかいないため、中盤でのこうしたトランジションにおける攻防で複数で連動して対応することが構造的に難しいこと。この写真で言うと、札幌は5トップではないけど4トップ状態になっていて、ボールを失った地点のすぐ近くにいる都倉はプレーに関与できるが、4トップのほか3選手は全く関与できないポジションに配されている。
 もう一つの理由は後述する。

2)ネガトラで食い止めきれない理由②


 東京がボールを戻すと矢印のように展開する。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 森重まで戻して札幌の守備を回避すると、再び前進を図る。森重には都倉が寄せていく。この時、最初のトランジションから10秒弱が経過しているが、札幌の選手の動きを見ると、宮澤が1人で中央のスペースを埋めて、深井やチャナティップ、駒井、都倉は基本的に近くの選手を捕まえようとしている。しかし肝心の、ボールに近い選手(橋本)は捕まえきれておらず、

 橋本にターンされて宮澤の脇のスペースへのスルーパスから一気に抜け出されてしまう(最終的に永井がゴールネットを揺らすがオフサイド)。

 この一連のプレーを踏まえて確認できるのは、宮澤と深井は、2人が中盤に揃っている(3-2-5で攻めている)時は片方がボールホルダーに寄せ、もう片方がスペースを埋めるという役割分担でほぼ動いている。一方で他の選手は、可能なら人を捕まえる、無理そうなら下がる、という程度の原則しかない。更に言うと、(画面に登場しないが)最終ラインは永井とディエゴへの警戒のため、押し上げてスペースを圧縮することも難しい。
 こうした状況によって、あと1人を捕まえていればハメることが可能だった局面(28:08)で失敗し、最終的にスペースを消すミッションにも失敗(28:09、宮澤1人だけがスペースを埋めようとしている)、という状況に陥っている。
 つまりミシャの言う「ボールを失った後の守備への切り替え」は、基本的に宮澤と深井+αの危機察知能力で成り立っていて、フィルター役としてのこの2人が判断を誤ったり、上記の一連の展開のように相手がより局面の攻防にリソースを割いてきたときには一気に分が悪くなるのが実情だったと思う。

3.雑感


 「(ジェイは)先発と途中出場、どちらが脅威だと思いますか?」…基本的にジェイはボールが入ってナンボなので、こうしたトランジションゲームが予想されるチーム相手だと、途中からの方が脅威になるかもしれない。後半、駒井サイドからのアタックが増えたのは東京の2トップの運動量が落ちて、宮澤と深井が中央で前を向きやすくなったことが影響していたが、よりクロスが供給されやすくなった時間帯にピッチに置いておきたい。
 反面、ジェイが多少不出来でも、上位チームに対してボールをシンプルに入れるだけでも互角に戦えるのは、フィルター役の深井と宮澤に依るところが大きい。本来トランジションゲームが苦手なミシャ式でもそれなりに何とかなってしまっているが、そろそろ情報も溜まってくるとこで、中断期間明けの戦いを見据えると組織の整備も必要になってくる。

2 件のコメント:

  1. ジェイと都倉を同時起用するとどうしても前が重くなるイメージがありますが、前に圧力をかけてくる相手には5バックでガッチリ受け止めつつ都倉がシャドーに入って裏抜けを狙うことで帳尻は合うのかなと思っていましたが、高萩がアタックする選手の裏のスペースをカバーすることでその狙いも封じられた。ガンバと比較すると運動量に裏打ちされた守備の強度の差が決定の減少となったというところでしょうか。

    都倉が1トップに入ってシャドーの運動量や地上戦の機動力で攻撃を機能させていたところへのジェイの復帰。惜しい場面を作れているだけに扱いが難しくなった印象があります。4-1-5の攻撃システムに移行する前にどんどんプレスをかけるというのが恒常化するとジェイが置物になってしまう危険性もありますし…。

    2ヶ月空くので気が利く兵藤が宮澤の穴をカバーしてくれることを願います。荒野はピッチ上でも無邪気なのであんまり信用できないし…。ツイッターにもありますが、ミンテは止まった状態だとそうでもないんですが動かされるとボロが出るという感じでしょうか。補強したいところですがCBは移籍市場に出てくることはない(あってもコンサが取れる可能性があるとも思えない)ので現実にはまず無理でしょうからモノになる選手を磨き上げて欲しいです。

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  2. ジェイはセカンドアクションに乏しいので、1回目に動き出したときに使ってあげないと置物になりやすいのは攻撃面ではあると思います。この点では、昨シーズンのようにファーストチョイスがとにかく長いボールを当てるやり方の方が、ジェイを組み入れたメンバーだとやりやすかったと言えますし、都倉はアクションの種類が豊富でかつ何度も繰り返せるので、遅攻主体のチームの9番としても非常に貢献度が高いと思います。

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