2018年3月1日木曜日

2018年2月24日(土)14:00 明治安田生命J1リーグ第1節 サンフレッチェ広島vs北海道コンサドーレ札幌 ~理想と現実の二頭体制~

0.プレビュー

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF宮澤裕樹、深井一希、駒井善成、菅大輝、三好康児、チャナティップ、FWジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF石川直樹、MF兵藤慎剛、早坂良太、小野伸二、FW都倉賢、ヘイス。蓋を開けてみれば、ほぼ予想通りのメンバー。以外だったのはシャドーがチャナティップで、プレシーズンに頻繁に試されていた宮吉はベンチ外。またアウトサイドの控えもウインガータイプの白井を獲得したにもかかわらず早坂だった。
 サンフレッチェ広島のスターティングメンバーは4-4-2、GK林卓人、DF和田拓也、千葉和彦、水本裕貴、佐々木翔、MF青山敏弘、稲垣祥、川辺駿、柏好文、FWパトリック、ティーラシン。サブメンバーはGK中林洋次、DF野上結貴、MF吉野恭平、馬渡和彰、柴崎晃誠、FW工藤壮人、渡大生。ヨンソン監督が退任し、城福浩氏が新監督に就任して迎えるシーズン。見たところセンターラインはそう大きくは変わっていない。またマーケティング的な観点から、開幕戦がこのカードになることは早い段階で想定されていたと思われる。

1.立ち上がり15分

1.1 リアリズムへのシフト


 ペトロビッチ本人も語っているが、「ミシャ式」の基本コンセプトとして、4-4-2に対するアンチテーゼとしての考え方がある。端的に言えば4-4-2で処理しにくい場所にまず人を配し、相手に変化を強いる。変化せずに4-4-2のまま正面から当たってくる相手は、空洞化された中盤を使われて侵入されたり、横幅が足りなくなったりといった困難が突きつけられることになる。
 そしてそのミシャチームが思い描く展開は、「自分たちがボールを保持したうえで」という枕詞ないし接頭語と基本的にセットになる。よってミシャチームに対する対抗策として、ボールを持たせなければいい(=ハイプレスでビルドアップを機能不全にさせる)という考え方もある。キャンプ期間中のトレーニングマッチで、自陣からのビルドアップをひたすら練習して(失敗して)いたのはこうした考え方を踏まえたもので、まず安定的にボールを保持することは絶対条件となる。

 しかしながら、この試合の序盤15分~20分ほどは、ボールを保持するのではなくシンプルに前線にボールを放り込む局面も多かった。ターゲットの多くはやはりジェイだったが、放り込まれるボールの質は様々で、高さを活かすだけでなく裏に一発で抜け出しを狙ったり、サイドのスペースを狙ったりと、とにかくプレシーズンのように、執拗に後方からの持ち出しだけを狙う試合展開とは異質だった。

1.2 パトとムイ


 城福浩氏の就任とは関係がなく、広島は世界で最もミシャを知るチームであり、その点においては序盤の展開はやや意表を突かれた格好となったのかもしれない。しかしそれでも、札幌ボールでプレーが再開されたときの広島のファーストディフェンスは、プレシーズンに見てきたどのチームよりもルーズなものだった。基本的にはパトリックとティーラシンで札幌の最終ラインを見ていたが、4~5枚で運ぶ相手に対し2枚では明らかな枚数不足で、ついでに言うと広島の2トップは何語でコミュニケーションをとっているのかもわからない。よって、広島は前線は高い位置でセットしているものの後方は札幌の5トップに押し下げられた、絵にかいたような間延び状態で札幌のボール保持を迎え撃つこととなっていた。

1.3 JB大作戦はオプションになりうるか


 まさかのミシャ招聘(予感はあったが、本当にやるとは思わなかった…)という大勝負を仕掛けた札幌にとって、主力が軒並み残留していること、とりわけ開幕からジェイが使えることは非常に心強い。ジェイがミシャの下だどれだけフィットするか未知数との見方もあるが、監督としてはジェイほどの実力者を使わない手はない。序盤ロングボールが多かった要因はいくつかあると思うが、「ジェイがいるから」で全て説明がついてしまうとも言える。
 ただ無敵のジェイを擁していても、万事が解決するわけではなく、結局のところオプションとして活かしていくには運用方針をそれなりに整備する必要がある。例えば下の21:06からの局面。福森が前線に放り込んだところだが、
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 このボールはやや長く、ジェイが勝てず広島が跳ね返す。この時、札幌は前線を5トップとして運用していることもあって、三好やチャナティップはほとんどトップに近いポジションで動いている。すると三好の背後、広島のボランチがカバーするエリアは札幌が人を配せなくなっており、セカンドボールを拾ったのは広島。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 セカンドボールを拾った柏は、佐々木に一旦戻してからリターンを受ける。佐々木へのバックパスを、守備に切り替わっている駒井がチェイスするが、三好はまだ守備に切り替えられていないため、依然として柏はフリーでスペースを享受する。三好はより中盤的なロールであれば、ここまで高い位置で3枚並んで張ることはないと思うが、高いポジションを取っていたこともあり、切り替えが遅くなっている。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 じゃあこの中盤のスペースはどうするの?というと、基本的に深井や宮澤任せとなる。カンテのような超人ならば、これだけのスペースを守れと言われても成立してしまうかもしれないが、宮澤はディレイもできず柏の突進を許してしまう。最終的には右サイドで抜け出され、シュートまでもっていかれてしまった。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

2.横幅攻撃の申し子

2.1 持たせてくれる広島


 先述のように広島は、ボールを保持する札幌に対して圧力を与える術を準備していなかったので、札幌の視点では、トレーニングしてきたことを発揮するための最初の前提(ボールを持つこと)はクリアできたこととなる。先述のように、広島の2トップは高い位置でセットはしているものの効果的な圧力はなく、ズルズル下がるだけ。札幌はボール運びに4枚も必要なく、宮澤と深井は中盤にいる局面も少なくなかった。
ボールを持つことへの障壁はなかった

2.2 横幅攻撃の申し子


 広島はいつまでも後方待機というわけにはいかないので、ゴール周辺のスーパージェイにボールが入る前にどこかで(札幌の誰かに対して)、誰かが圧力をかけることで札幌の前進を阻む必要がある。この「どこか」については、札幌が中央を迂回してサイドに開く福森がボールを持ったところである程度、「誰か」については、右SHの川辺が出てくることが多かった。
 ただ2トップの守備タスクが最低限で、青山と稲垣が中盤底にステイして守ることが多い状況で、川辺にできることは非常に限られていた。特に2トップによる1stディフェンスが脆弱な状況下では、ボールホルダーに対して相当強く寄せないと圧力を与えられないが、それ以前に前線と最終ラインの距離も問題になっていた。
 青山と稲垣がステイするという点については、チャナティップと三好のタスクにあって、両者は5トップ然としてスタートでは最前線にいるが、ボールが供給されるタイミングで中盤に落ちてくる。恐らくそれを見越して最終ラインは4枚のままで、落ちてきたシャドーをボランチが捕まえるという算段だったと思うが、ここであまり捕まえられていなかったことに加え、サイドチェンジなどでワイドに展開されると結局サイドハーフが最終ラインに戻らざるを得ない状況になっていた。
福森に寄せきれないと逆サイドに展開される

3.CBの資質

3.1 維持されていなかったヨモ将ルール


 失点シーンについては、結論としては根底にチームとしての守り方がまだ定まっていない中で、選手個人の問題…昨シーズンの第2節と同様の問題を感じた。
 失点につながる局面はまずCB中央のはずのキム ミンテがサイドに釣り出されるところから始まる。ミンテはこの試合、パトリックとのマッチアップが多かったが、サイドに流れることも多いパトリックに対してミンテがついていく理由は大きく分けて2つあり、一つはマンマークの関係を意識した対応をしているから。もう一つは、札幌のWB(特に菅)が広島のSBを見る関係上、左右のCBがスライドして広島のSHをケアする形になり、札幌は5バックと言いつつ最終ラインは4枚になっている局面が多かったこと。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 「ヨモ将ルール」とは、四方田前監督は最終ラインの選手をオリジナルポジションから動かすことを非常に嫌っていて、そのため昨シーズンの札幌は常時5バックが後方に張り付いているような極端に重心が後方に偏った試合があった。札幌がいつもボール保持率が低かったのはこれが要因の一つで、5バック(特にWB)が後方に張り付いているので、ボールを奪いに行く守備がほとんどできないため。
 ただこれにより、ゴール前にCBがいないという状況に陥ることは非常に少なく、ボールを持たれている割に最後のところで持ちこたえることができたのはこの戦術のおかげでもあった。
 一方でミシャは基本的にシャドーが相手CBを見て、SBはWBが見る。菅は頻繁に高いポジションを取るので、SBの位置にいないことも多く、その場合は福森がボールサイドにスライドし最終ラインは4枚となる。このメリット、デメリットについては(恐らく今後狙われることになるので)別途みていく。

3.2 CBの資質


 頻繁に持ち場を離れるミンテと共に問題を抱えていたのが進藤で、この局面では進藤は最終ライン中央に戻る一連のプレーで何度も首を振ってマーク対象を探していた。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 結果的に進藤は15番の稲垣をマーク対象として捕まえることになるが、稲垣がゴール前から離れると、進藤はこの動きについていく。その流れのまま、進藤の守備対象はあるタイミングで稲垣からボールホルダー(柏)に代わっている。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 ゾーンで守り、ボール周辺の圧力を高めるために、ボールサイドにスライドして寄せていくという考え方はあるが、そうであったとしたら柏に対するミンテの圧力は足りなすぎるし、進藤がミンテの斜め後方を守るとしてもここまで寄せる必要はない。人しか見ていないことで、結果的に最も守るべきエリアを放棄してしまっている。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

4.雑感


 記事中で細かく触れなかったが、主に攻撃面で見慣れた形とは異なる点がいくつか見られ、意図的なアレンジがされていた。一方でボールを持っていない時の戦いぶりは、明らかに整備不足を露呈していた。プレシーズンの起用法から予想すると、しばらくは最終ラインはこの顔ぶれとなりそうだが、この整備状況で守り切れるメンバーではないように思える。となると、とにかく相手にボールを渡してはいけないのだが、これについてもプレシーズンの戦いぶりを見る限り、ハイプレスを仕掛けてくるチームとの対戦が最初の試練になりそうである。

※仕事が落ち着いたので、第2節からは、去年と同じような感じでもう少し長めに書きます。今シーズンもよろしくお願いします。

8 件のコメント:

  1. 今年も楽しみにしてます!

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    1. ありがとうございます!よろしくお願いします

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  2. 福森から縦パスを出せるのでボランチを落としてビルドアップする意味を感じませんでした。
    3バックのままビルドアップしてハメられたらジェイに放り込んでダブルボランチがセカンドボールを拾う形がリスクが少なくてしばらくは現実的かなと思うんですが・・・

    失点シーンは宮澤がディフェンスラインに入るか、ミンテが残るかで対応できますが、ミンテの食いつき癖はすぐには治らないのでディフェンスラインをボランチがカバーする意識が必要かと。
    四方田監督のスカウティング能力があれば自チームの問題点は把握できていると思うので修正に期待。

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    1. コメントありがとうございます。
      今度書こうと思うのですが、MFを落としてDFを安全な場所に逃がすという考え方ですね。
      ただそれもあまりやっていなくて中途半端な状態でした。

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  3. 今年も楽しみにしています。
    ジェイが競った後のセカンドボールが拾えていないなと思っていましたが運動量の問題ではなくシステム上の問題だったということですね。広島戦では基本ジェイには放り込むだけで地上戦で繋ぐことをしていなかった。シャドーがそのタスクを担っていたのかも知れませんが、三好と特性がカブりぎみなチャナは割を食いそうな予感がしてなりません。放り込むにはジェイだけでは枚数が足りないし、攻撃面では高さや技術においてヘイスが欠かせないように思います。高さだけなら都倉もアリですがどう考えても小回りが利くタイプではないので…。
    失点シーンは「人につく守備」をずっとやってきたコンサではああなったらしゃあねーなって感じです。石崎コンサにしても四方田コンサにしても相手FWにはマンマーク&低い位置で踏ん張る守備だったので。人につく守備が基本なら食いつかせて空いたスペースに…となるとただでさえ前に人数かけていたら防ぎきれませんし。いっそスペースを見ることのできる宮澤をCBにとか無茶振りさせたくなります。
    広島が持たせてくれたこともあるのでしょうが、深井がビルドアップ時に浦和式の4-1の1だけじゃなくけっこう多くのポジションに入っていたように思います。また、菅OUT石川INはパトリックのケアというよりも福森をサイドチェンジ役、石川をクロスの供給役という感じで起用したのかな、と。石川が入ることで福森がより高い位置に出ても守備のリスクが大きくならないので。

    とにかく攻めダルマのミシャなのでボールを取られたらしばらくは神頼み状態を覚悟した方がよさそうですね。

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    1. >フラッ太さん
      コメントありがとうございます。私の方も何とか開幕しました。
      深井宮澤の関係は、セレッソ戦を見ても実は、単なる3バックで今は運用しているように見えました。恐らくトランジション対策で。ただその結果すごく中途半端になっていて、今はミシャが(旧体制?に)借りを作っているような状況かもしれません。
      ハワイでの試合を見て思ったのは、ミンテは国際戦向きですね。跳ね返すだけなら相当強いし足も速いんですけど、舵取り役としては厳しいかもしれません。

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  4. 今年も頑張ってねー。
    俺は今年も仕事忙しくて、すぐに返信できないかもだけどマッタリ読んでいきますね。
    意見としては、フラッ太さんと同じでヘイス必要だなーと。ただまだ寒くて無理かなwww
    まだ出ていない選手も多いし、今後の選手起用も色々と楽しみ。

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    1. >にゃんむるさん
      ありがとうございます。何とか続けていきます。
      もう少し全般に重心を高められて、組み立ても安定すればチャナティップ→ヘイスになるのかなと思います。今はまだ、チャナティップのプレーエリアの広さも捨てがたい状況なのだと見ています。

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