2018年2月2日金曜日

2018年1月27日(土)15:00 トレーニングマッチ 北海道コンサドーレ札幌vs浦和レッズ ~キャッチアップの必須要件~

0.プレビュー

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GK菅野孝憲、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF白井康介、駒井善成、深井一希、菅大輝、三好康児、宮吉拓実、FW内村圭宏。
 浦和レッズのスターティングメンバーは4-1-4-1、GK福島春樹、DF橋岡大樹、岩波拓也、阿部勇樹、宇賀神友弥、MF青木拓矢、李忠成、柴戸海、長澤和輝、荻原拓也、FW興梠慎三。
 45分1本×4の実質2試合メンバーを入れ替えて行われたトレーニングマッチ。興味がなかった(フリをしていた)が、Youtubeに鮮明な動画がアップロードされていたので、オフの鈍った筆を暖める意図もあり、可能な限りで記事を書くこととする。
 ⇒と思っていたが、動画が削除されてしまった。1本目途中までしか見ていないので、トピックを絞って公開します。

 浦和のメンバーは昨年11月のACL決勝第2戦にスタメン出場したメンバーが5人(阿部、宇賀神、青木、長澤、興梠)含まれている。ラファエル シルバ以外の10選手がキャンプに合流していることを考慮すると、浦和はこの後に行われた3・4本目とでメンバーを均質に分けたと言える。一方の札幌は、昨シーズン終盤のスタメンクラスは福森だけ。駒井などはレギュラークラスの活躍が期待されているが、この後に行われた3・4本目のメンバーが実績のある「ヨモ将チーム」、1・2本目のメンバーは新加入選手と若手中心の「ミシャチーム」といった恰好である。なお駒井は34番のトレーニングウェアを着用していた。

 前提の確認だが、キャンプ中のトレーニングマッチはテスト以上の意味合いは基本的にない。選手の実力やコンディションの見極めの他に、シーズン中には採用しずらいアプローチを試験的に運用するためのゲームと位置付けられることが多い。かの三浦俊也氏も、08年プレシーズンのキャンプイン時は、「より攻撃的な戦術を試したい」と語っていた(構想の中心の一人がアルセウだったこともあり、1週間でその発言は撤回されたが)。


1.標準言語の理解度


 日本での過去12年のシーズンで、ペトロビッチはCBを3人起用する戦い方のモデルの1つを提示してきた。この12年間でミシャのメソッドは、国内のいくつかのチームに一定の影響を与えてきている。言い換えればミシャのやり方は部分的に既にパクられ、またアレンジされていて、今なおDAZNでJ1やJ2のチームの試合を見ていると、その影響力を垣間見ることができる。札幌にとっても、実はミシャは実は全く新しい異物とは言えなく、具体的にはバルバリッチの攻撃の構築は部分的にミシャのメソッドを流用していたところがあったと思う。
 一方で「ミシャ式」も年々マイナーチェンジを続けていて、その変化は、現代のサッカーで一般化しつつあるメソッドにインスパイアされることによって生じている節がある。先日、都倉の「頭が疲れる」というコメントが報じられたが、都倉はあまり海外のサッカーを観ていないタイプの選手だと思うので、逆に観ているらしい、宮澤や深井ならばもう少し理解も容易なのではないか?という印象はある。

1.1 攻防の根底にある標準言語


 動画の冒頭、札幌が最後方から攻撃を開始する局面で、札幌は4-1-5の形…「ミシャ式」を忠実に実践しようとする。この時、「4」の中央2枚は、キム ミンテと深井。この2人は下の図のようにペナルティエリアの幅以上に広がったポジションをとる。これによって、札幌は中央からセンターバックがいなくなるが、これは相手がブロックを組んだ時に、この2人が位置取りしている最後方のサイドの位置は「安全地帯」となるため。ガリーネビルが2009年のチャンピオンズリーグ決勝について、「キックオフ直後、バルサが全く見たこともない形に変形して混乱した」と解説している映像があったが、当時グアルディオラが見せたイノベーションは数年の時を経て一般化された。ミシャが札幌の選手にこの形を提示したのも、ミシャとしては難しいことをやらせているという感覚は全くないと思われる。
ミシャチームの基本ポジションと狙い

 そして浦和も平然とこの形に対処する。CBが開くなら、同じだけ人を配せばいい、と当然のごとく変形する。2トップに見立てられる興梠と長澤で深井とキムミンテ、SHに見立てられる李と荻原が福森と進藤を監視する。
 ここでキーになるのが駒井。というのは、駒井が菅野からのパスを受けられる位置まで落ちれば、浦和は他の4選手に対するのと同様に駒井にも人を用意するか、放置するかという二択を迫られる。放置されれば、フリーの駒井が菅野からの最初の受け手となって組み立てを開始することができる。浦和の選択は、中盤を放棄する代償に駒井にもマンマーク。これで菅野は駒井を使えなくなり、ミンテか深井にとりあえず出すしかない。
狙い通りに事を運ばせないために高い位置からの監視とプレス

1.2 ボトルネック化の懸念


 この最初のプレーでは右の深井に菅野が出す。深井を監視していた長澤が寄せてくるので、深井はボールを逃がしたいが、逃がしどころとして一番近く、視野を確保している進藤は荻原が監視している。駒井は柴戸が見ている。ただ相手が数的同数で守っているので、これは十分に想定される状態。この時、一般にどうするかというと、ボールを手放したGKが「もう1人のフィールドプレイヤー」としての役割を担うのが一つの手。つまり深井→菅野へのリターンパスである。
 ただ、浦和もこれはわかっていて、ミンテを見ていた興梠が菅野の監視に切り替える。これがなければ、深井は菅野を使っていたのかわからないが、全北現代戦のハイライト動画を見ても、菅野はこの働きがどこまでできるか不透明な印象を受ける。GKの足元の技術というと、「狙ったところに蹴る能力」だけでなくて、所謂止めて蹴る能力も求められるようになっている。菅野はこの時、興梠が迫ってきたこともあるが、深井からのリターンを処理することをあまり歓迎していないような動きに見える。
菅野は簡単に消されてしまうので深井は進藤しか選択肢がない

 深井のパスを受けた進藤は出しどころがなく、荻原に体を入れられてボールを失う。曽田雄志氏や池内の系譜を継ぐ男と目されている進藤だが、これは進藤が悪いと言うより、出し手にも、また出し手の深井にも菅野が使えないので選択肢がなさすぎるという問題がある。
 荻原が中央に折り返すが、この時札幌はゴール前にDFが全くいない状態。当たり前と言えば当たり前だが、攻撃の組み立てのために深井とキムミンテをワイドに開かせているため。ガリーネビルが混乱したのはまさにこうした理由で、自陣深くでCBをゴール前から動かすというのはこれだけリスクがあるプレーであって(しかもチャンピオンズリーグの決勝開始早々から仕掛けていたので)、根本的にここでミスをしない前提で採られるメソッドである。念のため言っておくが、札幌は1発目からミスしている。

2.変化を強いる

2.1 相手に矛盾を突きつけるポジショニング


 上記1.の攻防がサッカーの標準言語の延長線上にあるものだとしたら、対照的に、荻原が折り返した後のプレーはミシャサッカーの特徴的な現象だと言えるかもしれない。
 萩原の中央への折り返しは、駒井がインターセプトし、攻守(ボール保持)が札幌→浦和→再び札幌と切り替わる。この一連の局面で、高い位置でのボール回収に成功した浦和は陣形を押し上げるが、それでも両チームの選手の配置は下の図のように中央部を空洞化したような配置になっている。
 この選手配置は札幌が仕掛けた格好で、浦和が変化を余儀なくされている現象である。ミシャのチームはゴールキック等の局面において、後方の5枚が自陣深くからボール保持を開始し、前方に5トップ気味に限界線(=オフサイドを取られない、ハーフウェーライン付近)ギリギリに人を並べ、目いっぱいピッチの縦幅を使う。札幌が最初にこの形をとると、浦和は先述のようにマンマーク気味の数的同数守備で対抗するが、言い換えれば浦和は札幌のポジショニングによって「変化を強いられている状態」。サッカーの鉄則として、守備側はピッチ全てをカバーすることが不可能なため、人やボールへの圧力、オフサイドトラップ等を活用するし、エリアを限定して、その限定されたエリアでの守備強度を高めることが求められるが、浦和は札幌のポジショニングによって中盤に大きなスペースを与えている。
中盤が空洞化した状態でトランジションが続く

2.2 ミシャのステアリング


 上記2.1に続く局面。駒井はインターセプトし、そのままオープンな前方のスペースに向かって加速し、青木を剥がしてから左斜め前方の宮吉にパス。宮吉が引いて受け、ワイドに張る菅に展開する。先述のように、ポジショニングによって中盤を空洞化させている状態で、ここに駒井のようなボールを運べる選手を配すとスピードに乗った状態で中盤を通過することができる。
 札幌のMFで言うと、宮澤はターンが巧いのでスペースがない状況でも前を向いて展開することができるが、中盤が空洞化した状態ではそうしたターンの技術がなくても前を向きやすいし、またそのスペースを活用できる運動能力、そしてボールを失わずに展開できる能力が欲しいところ。ミシャとしてはオープンな中央で"ステアリング"として、駒井を起用したいとのことだろう。また駒井以外でこのポジションに向いていそうなのは、宮澤よりも荒野だと思われる。
中盤のスペースを活用できる駒井の能力

 余談だがこの札幌→浦和→再び札幌とボール保持が切り替わる局面を見ていても、トランジションの際に中盤のアンカーの脇に人を配しておけば、ボールを失った後に素早くプレスを仕掛けて速攻を封じることができることがわかる。所謂アラバロール(別途どこかで説明予定)の重要性が示唆されているとも言えるし、浦和における森脇のように、札幌でも福森あたりがそうした役割を担うようになっていくことも十分に想定される。

2.3 変化を強いた末


 ワイドで張る菅に渡ると以下のような形になる。浦和の4バックはボールサイドに寄せて守るが、現代サッカーではピッチの横幅を使って攻撃するチームに対して、横4枚で守ることは難しくなっている。菅のサイドに寄せれば、逆サイドで白井はオープンなスペースを享受することができるので、ここで菅が縦に仕掛けるのも一つの形ではあるが、ボールを戻して(再び宮吉を経由するなどして)反対サイドに展開できれば、より縦方向への突破が容易な状態になる。
横幅が足りず、補充も不可能な浦和

 5トップ気味に張るミシャチームに対して、4枚で守ることは難しいので、大抵のチームは5バックにして数的同数、かつ横幅5枚を確保するか、4バックのチームの両サイドハーフが下がって6バック気味になる対抗策もみられる。ただ、そうして後ろの枚数を増やすことになると、前の枚数が減る。前の枚数が減れば、ボールを奪い返すことに成功しても効果的なカウンターを仕掛けることが難しくなる(札幌の2017シーズン序盤、都倉とジュリーニョの2枚しか前にいない状態に近い形が恒常的に続く)。という具合に、相手が望まない形に変化を強いることで圧力をかけていくことをミシャのチームは得意としている。この点は、チーム始動後2週間程度であるこの試合でもそれなりに具現化されている状況が確認できた。

3.現時点での差と伸びしろ

3.1 GKからの攻防


 ミシャのチームは攻撃することで相手に変化を強い、圧力をかけていくというが、それにはまずボールを保持することが条件となる。守備も攻撃と同じく年々マイナーチェンジを続けているが、基本的には5バックをゴール前に敷くところから逆算するリトリートを基本としている。この点が、現段階で「ヨモ将サッカー」と最も違和感なく移行できる部分かもしれない。

 この試合の序盤、浦和のゴールキックの際に両チームは以下のようなポジションを取ったところからプレーを再開していた。札幌は前線の3枚…宮吉・内村・三好が3トップ気味に並んで浦和のビルドアップ部隊を監視する。宮吉と三好がCB2枚、内村は中央のアンカーポジションを担当する。
 浦和はCBを封じられると、GKからCBを飛ばしたSBへの斜めのパスを使う。このキックはヨーロッパではGKの標準装備になりつつあり、西川は左足ならば日本人GKとしてはかなり高い精度でSBに通すことができるが、近年は西川に左足で蹴らせないような守り方をするチームがJリーグ、国際試合の両方で増えている。福島は西川よりはキックが巧くないのだと思うが、札幌は浦和のSBを菅と白井が牽制すべく、高いポジションを取って対抗する。
 札幌のこのセットに対して、浦和は内村の周囲に青木と柴戸が現れることでまずボールを入れる。内村1人では2枚を見ることができないので、無抵抗状態になってしまうか、ボランチの1枚(駒井か深井)、もしくは三好か宮吉の応援を待つことが必要になる。
札幌は枚数を合わせたいが浦和は枚数を増やせる

3.2 表裏一体


 しかし内村のヘルプに駒井が現れるにせよ、三好が現れるにせよ、浦和は一瞬でもオープンな選手を1人作ることができれば、札幌のこのハイプレスを無力化することに成功していた。その理由は、浦和はGKをビルドアップに組み込むことができているためである。
 下の図は、阿部が一瞬三好を外して福島からのボールを受けたところから開始したプレー。阿部に三好が寄せると、阿部は福島にボールを戻す。これによって、三好vs阿部+福島という1on2の関係が部分的に成立している。ただ福島は自陣ゴールから3mの位置で、リスクのあるプレーを敢行できないため、なるべく早く安全にボールを逃がしたい。ここに札幌の選手が寄せていけば、福島の「リスク」は増大するのだが、そうした事態を防ぐために阿部は福島にパスを出すとすぐに動き出して、「出し手」から「受け手」へと転換する。この局面では、福島を使ったシンプルなパスアンドゴーだけで三好は剥がされ、阿部の前進を許してしまう。
FPが一瞬でも空けばGKを使って前進できる

 先の1.で触れた攻防と比較すると、浦和は菅野がフィールドプレイヤー化することの重要性を理解しているので、興梠がそれまで見ていた選手(ミンテ)を捨てて菅野を消すように動く。一方で、札幌はこの局面で内村も宮吉も、当初の守備対象の選手の監視を続けているので、福島のフィールドプレイヤー化を許し、これが浦和のビルドアップの成功を許す決定的な要因となっている。

4.雑感


 大前提としてサッカーは相対性の競技なので、相手が何をしてくるかによってこちら側に求められる要素も変わる。ただ、おそらくスカウティングをサボっていない限りは、大半のチームはこの札幌相手ならハイプレスでの対抗をまず考えると思われ、その場合ソンユンは2017シーズンまでのように専守防衛ではない振る舞いを求められる(最終ラインの選手も同様だが、フィールドプレイヤーは基本的に適した選手を使えばいいだけ)。伸びしろといえば伸びしろだが、ソンユンや札幌のこれまでのスタイルを考慮すると、それなりに大掛かりな転換となりそうで、そう容易には事が運ばないかもしれない。

4 件のコメント:

  1. ソンユンはキック力あるからハイプレス受けたら都倉、ジェイに蹴るだけでチャンス出来そう。

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    1. 2007年のダヴィと、J2中位のDFくらいの質的差異があればそれでもいいと思います。

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  2. 今年もよろしくお願いします。

    DFラインのスライドというのはわりとイメージできますが、基本、前線の守備は1on1で見ることになっているのでコーロキにみられるいわば攻撃的守備のスライドとでもいうものは浸透させるには時間がかかるように思います。

    攻撃時の4-1-5で4と1にプレスをかけることでGKにビルドアップに参加させても(出し手がいないために)無効化できるというのが浦和のミシャ式への対抗策と理解していますが、さてそこからどう打開するのか?浦和は西川の能力が高いので中盤すっ飛ばしで一気に前線にボールを送れましたが、ソンユンにそれができるのかどうか。遅延行為でイエローもらうことが多かった印象があるのでたとえジェイや都倉など的がデカくてもそこで勝てるかどうかは微妙な気がします。

    手詰まり防止としては1をサポートするためにシャドーのどちらかが近くに降りてくるのが自然な気もしますが、ミシャがどのように解決策を用意するのかはなかなか興味深いところです。

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    1. >フラッ太さん
      こちらこそよろしくお願いします。
      結局スタイルとしてやっていくには攻守ともに合理的、徹底的に突き詰めないと中途半端で終わるので、そのうち今の課題にもメスが入ると思います。
      例えば西川が槙野や森脇に40m出すプレーもACLでは結構成功率が下がっていて、受け手にガッツリ寄せると厳しんですけど、成功率が低いからと言って西川で組み立てなおすことを放棄すると、やれることが極端に少なくなってしまうので、技術的な部分で札幌のスカッドだと限りがあると思うんですけど、選択肢を持っておく子とは必要だと思うんですよね。その点では、まだキャンプ段階ですし、GKのところでもっとトライすべきだと思います。

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