2017年4月4日火曜日

2017年4月2日(日)17:00 明治安田生命J1リーグ第5節 ヴァンフォーレ甲府vs北海道コンサドーレ札幌 ~動かざる山~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-5-2、GKク ソンユン、DFキム ミンテ、横山知伸、福森晃斗、MF荒野拓馬、宮澤裕樹、深井一希、兵藤慎剛、菅大輝、FW都倉賢、ジュリーニョ。サブメンバーはGK金山隼樹、DF上原慎也、永坂勇人、MF前寛之、河合竜二、小野伸二、FW内村圭宏。
 ヴァンフォーレ甲府のスターティングメンバーは3-5-1-1、GK岡大生、DF新里亮、新井涼平、エデルリマ、MF松橋優、小椋祥平、兵働昭弘、オリヴァー ボザニッチ、阿部翔平、堀米勇輝、 FWウイルソン。サブメンバーはGK山内康太、DF畑尾大翔、山本英臣、MF島川俊郎、曽根田穣、FWドゥドゥ、河本明人。堀米がMF登録ながらウイルソンと前線でコンビを組むので選手特性も考慮し、3-5-1-1と表した。メルボルンヴィクトリーから加入したオリヴァー ボザニッチがJリーグデビューとなる初先発。同ポジションで出場していた田中佑昌は右ふくらはぎ痛で欠場。3バック中央には重鎮・山本ではなく新井が入る。
 J1は国際Aマッチウィークを挟み、2週間ぶりの開催となる。この間に日本代表はロシアワールドカップ最終予選で2連勝、タイ代表でジェイことチャナティップ ソングラシンが埼玉スタジアム2002でプレーする等のトピックがあった。中断期間前、ルヴァンカップで磐田に、リーグ戦で広島に勝利しいい流れだったはずの札幌だが、ヘイスが3/24のトレーニングで左膝内側半月板損傷の重傷、金園が3/26のトレーニングで左ハムストリングス肉離れで離脱。この他マセード、石井、田中のウイングバック3選手も欠場と一気に苦しい台所事情になってしまった。一方で早坂とジュリーニョがこの週から全体練習に復帰、ジュリーニョは早速スタメンに名を連ねている。

0.「自分たちのサッカー系」監督


 かのロスタイム3失点試合の相手として我々の記憶に残っている甲府。近年は2013シーズンから5シーズン連続でJ1に参戦する中で、2012~2014シーズンに指揮を執った城福浩氏だったり、今シーズンから就任した吉田達磨新監督だったりと、どっちかというと「自分たちのサッカー系」の監督を連れてきていて、何らかチームとしてのスタイルのようなものを植え付けたいのかな、との印象である。ただ甲府時代の城福氏は、自身の志向するスタイルでの戦いを半ばあきらめたかのような、リスクを排除し失点しないことを第一とした、割り切ったスタイルで2シーズン連続でのJ1残留を成し遂げた(もっともその後、FC東京の監督にカムバックすると元通りの城福氏に戻ってしまったが)。柏、新潟と2クラブ続けて、1シーズンでの解任の憂き目にあっている吉田氏が今後、甲府でも自らのスタイルを貫くか、それとも城福氏と同じ道を辿るか、という点は今後も注目である。


1.前半

1.1 札幌の準備

1)札幌の用意していた形


 以前twitterかどこかで見た情報(確か野々村芳和社長の発言として回ってきたツイートだった気がする)によると、札幌と甲府は2017シーズンの強化費がJ1でそれぞれ17位と18位だとのこと。両者とも、最終的に40弱の勝ち点を獲得してJ1残留を成し遂げる目標から逆算すると、互いに勝ち点3を獲りたい相手として勘定していたはず。また後々6ポイントゲームだったとして振り返ることになる可能性もかなり高いだろう。

 そうした試合の位置づけ等も反映されて、立ち上がりは両チームとも、「どこまでならセーフティに進められるか、どこからがリスクを伴うのか」を確認したうえでの堅い入りだったと思う。
 札幌が「セーフティに進められるところ」として認識していたのは、5-3-2ブロックで守る甲府の2トップ脇のところまで。ここに右は荒野、左は福森を配し、前線の都倉とジュリーニョが競る準備、中盤で宮澤と兵藤が拾う準備ができれば、早いタイミングでアーリークロスを入れていく。開始4分ごろという早い時間帯から見せていたので、恐らく試合前から決めていた形だったのだと思う。

 福森がサイドバックのようなポジションを取る形は2015シーズンから定番となっているが、これまで主に見られた形はWボランチの一角が最終ラインに入り、後ろの3枚を確保したうえで福森をアウトサイドに押し出すパターンだった。この試合では下の図のように、アンカーの深井は残っているものの、最終ラインは横山とキム ミンテの2枚だけにして、福森をより相手のプレッシャーがかかりにくい位置に置くが、奪われたときのリスクもより大きい形にしていた。
福森を上げて起点にしてからのアーリークロス連射

2)福森を張らせることによるリスク


 リスクが大きいというのは具体的に、①この状態で札幌が攻めている時に甲府のカウンターが発動すると、甲府の2トップのウイルソン&堀米vs横山&ミンテという2on2の形が作られやすいことと、②ビルドアップの段階で横山&ミンテに、ウイルソンと堀米で当たられるとそこで展開が詰まってしまいやすくなる、という2点を指している。
 後者に関しては、アンカーの深井を使って3on2の関係で攻略することもなくはない。ただこれまで札幌は、アンカーを使ったビルドアップをあまり使っておらず、殆ど福森や菊地のところでミスマッチを作って縦パスを入れていく形が主なので、福森を完全にサイドに張らせてしまうとそもそも福森に届ける前に詰まってしまうことを懸念したが、甲府の2トップによる守備の開始位置が低いこともあり、このことは問題とならず、アーリークロスを入れること自体はできていた。

1.2 恐竜対策

1)札幌最終ラインを放置する代わりに裏のスペースを消した甲府


 前項で「甲府の守備開始位置が低いので、横山とミンテのところでボールを持った時は困ることはなかった」という旨の説明をした。言い換えれば、甲府は引いていたということになる。
 DAZN中継の8分頃、甲府の吉田監督のコメントとして「札幌が3-4-2-1でも3-5-2でも対応できる準備はしている」と紹介されていたが、甲府が考えた根本的な対策は、札幌の前線が2枚だろうと3枚だろうと、恐竜・都倉が暴れ回るスペースを消すこと…最終ラインを低く設定してコンパクトなブロックを敷くことだったと思う。

2)相手するなら実は空中戦勝負のほうがマシ


 ステレオタイプなサッカー観であり近年は通用しなくなっているが、でかくて空中戦に強いFW=鈍足、ラインを上げて(=ゴールから遠ざけて)守る、というセオリーがある。ただ都倉は高さもあり、動けるという日本人基準では稀な身体的資質を持っていて、都倉に対して裏のスペースを与えるとどうなるかは、前節の広島戦でも実証されたところだった。
 そこで甲府としては、二択的な考え方として都倉に対し、①速さ勝負に持ち込む、②高さ勝負に持ち込む、のうち後者を選択したということになる。
 速さ勝負に持ち込ませないためには、都倉がスピードを発揮するだけのスペース…DFラインの裏を消すためにラインを低く設定する。すると札幌は都倉の頭を狙ったボールを増やしていくので、空中戦で負けないことが重要になるが、そのために最終ラインに184cmの新里を入れ、山本(175cm)ではなく新井を中央に配し、高さを確保するとともに、DF~FW間の距離を短くしたコンパクトな陣形でセカンドボールを拾いやすくすることで対抗していたと思う。
札幌DFラインを放置する代わりに裏のスペースを消す

 DAZN中継で解説を務めた戸田和幸氏は、札幌がロングボールを放り込むたびに、甲府のファーストディフェンスの緩さを再三指摘していた(ロングボールを蹴らせないように、もっと厳しく堀米やウイルソンは当たったほうがいい)が、個人的には都倉の個人能力を前提とした札幌のこうしたやり方に対する対策として、甲府の選択は正しかったと思う。

 こうした両者の考え方と試合の入り方によって、開始10分頃までは、やりたいことが途中まではできている札幌と、それを受ける甲府という構図で進んでいく。

1.3 動き出す時間帯

1)嫌な予感


 試合の入りは悪くなかった札幌だが、10分に甲府のカウンターに対応した深井がセンターサークル付近で膝を抱えてうずくまる。結果×サインが医療スタッフから出され、前寛之が14分に投入される。アンカーもインサイドハーフもできる前寛之だが、ここではインサイドハーフに入り宮澤がアンカーに移動する。
14分~

 この交代によって深井という明確なアンカーを失った札幌。宮澤が深井の役割…甲府の2トップの間でビルドアップを助けたりカウンターに備えたポジションを取るのかと思ったが、宮澤は流れの中で、よく言えば「中盤のあらゆる局面に顔を出す」、別の言い方をすると「アンカーのポジションを放棄する」とも評すべき動きを繰り広げる。
 宮澤が中央にいない局面では、結局のところ前寛之や兵藤がそのスペースを埋める場合が多かったが、状況によっては中央に誰もいない、甲府の2トップと横山&ミンテが完全に2 on 2の関係になっている局面も見受けられた。ただ甲府のボール回収位置が終始低い位置にとどめられたこともあり、中央にアンカーがいないことが致命傷とはならなかった。一つ言えるのは、チームとして札幌のゲームプランは前半から非常にアグレッシブに振る舞い、ゴール前の枚数を確保して点を取りに行くということだったのは確実だと思う。

2)サイドを突く甲府


 そしてこの深井⇒前寛之の交代と基本的に因果関係はほぼないだろうが、少しずつ甲府がボールを持った時に狙いを示し始めた時間帯も15分前後だったと思う。
 甲府がボールを持った時に各選手のポジションニングは以下のようになっていて、アンカーの兵働が必ずジュリーニョと都倉の間に位置する。新井と兵働で時折ボールを出し入れしつつ、サイドの新里とリマ…特に左利きのリマを始点としてボールを運んでいく。
兵頭が2トップをピン留めしてサイドのCBをオープンにする

 リマがボールを運ぶと、札幌はインサイドハーフが前に出て対応するが、甲府は同サイドで阿部とホザニッチがリマからのボールの逃がしどころを作る。特にホザニッチが非常に曖昧な位置にいて、札幌は誰が見るべきか迷うところがあった印象を受ける。阿部は基本的にサイドで浅めの位置に張るが、これにより荒野を釣り出す意図があったと思う。
 そして荒野を動かしてできたサイドのスペースに、2トップのウイルソン又は堀米を走らせ、リマやホザニッチからボールを入れていく。ウイルソンも堀米も、前を向いた時に地上戦で仕掛けられる選手であり、どちらのサイドでもこの形が作れるように考えられていたと思う。
サイドから運んで裏にFWを走らせサイドをえぐる

1.4 動かざる山

1)山のふもとまでは侵入できる札幌


 個人的には非常に謎だったのが、甲府は札幌の2トップ脇を使って起点にしようと試みていたのに対し、守備に回った際にはこのポジションを殆どケアしなかった点。戸田和幸氏が指摘していた”緩さ”も恐らくこのことを指していて、前半の大半の時間で福森はこのポジションで自由を謳歌していた。
 前半20分頃になると、札幌の選手…特に福森は、空中戦だけでなく地上戦でも突破の糸口が十分にあると判断したのか、左サイドからジュリーニョや都倉に縦パスを入れていく局面が増えている。この時の構図は、菅が高い位置で松橋を引っ張って(丁度、甲府の攻撃時の阿部翔平・荒野の関係に近い)ライン間に顔を出した都倉やジュリーニョが収め、押し上げていた前寛之や兵藤が前を向く形。先に説明した、試合序盤と比べると、更に10mほど敵陣に侵入することに成功していることとなる。
FW脇のケアが非常に甘いので福森は更に侵入を試みる

2)動かざる山


 しかしこの福森から縦パスが入った後の展開が札幌にとっては非常に問題で、下の図のようにジュリーニョに縦パスが入ったとしても、甲府の5バックのうち新里がジュリーニョにぴったりと着いて前を向かせない対応をする。そして最終ラインの残りの選手は、松橋が菅をケアしつつ中央に絞り、新井・リマ・阿部の3枚でボールサイドにスライドしながら中央の都倉を3枚で守る。都倉の前には3人のDFが山のごとく鎮座していて、仮にボールが渡ったとしてもシュートを枠に飛ばすことは難しい。
縦パスは入るが、ゴール前から甲府DFは殆ど動いていない

 結局のところ、監督が変わろうと甲府の強さというか、J1で勝ち点を拾うための生存戦略はこの5バックによる守備戦術に集約されている。守備の開始位置を下げることで相手にどれだけボールを握らせ、ピッチを使わせても、ゴール前から極力5バックを動かさず、また2列目も低い位置に設定することでバイタルエリアからスペースを消し、相手の攻撃の選手に前を向かせず、ボールが入ればプレスバックして挟み込むことを徹底する。
 そうすることで狭いスペースでプレーできない選手からボールを低い位置で回収し、前の広大なスペースを使って単騎でボールを運べる選手がカウンターに繋げる。非常にシンプルかつ古典的なやり方だが、この日の札幌のように、崩しの仕掛けに乏しいチームにおいては、攻め込んでいるけど最後のところで崩せない、という手詰まりな展開になりがちで、結果相手が先に焦ってしまいバランスを崩し、甲府にカウンターの機会を与えてしまうという試合展開も少なくないように感じられる。

3)山を動かすには…


 では札幌は甲府のDFを動かしてチャンスを作るにはどうすべきだったかというと、一番に思いつくのは、2トップの動き出して3枚のCBのうち1枚を引っ張り出すこと。下の図に示したが、左サイドからの展開と仮定すると、ジュリーニョがDFラインの裏…中央方向にはスペースがないので、サイドに流れるような動きをすれば甲府は新里がポジションを捨てて付いていくなくてはならなくなる。
 すると5バックだったはずの甲府の最終ラインは、菅が松橋を引っ張っているので3枚しか残らず、更にジュリーニョが空けたスペースは空いたままになっている。ここに2列目から兵藤や前寛之が走りこめば、前を向いた状態でバイタルエリアでボールを受けられ、また甲府は新里が引っ張られているので新井が釣り出される…という具合に1枚ずつマークがズレて、枚数が減りマークが受け渡されることで、ゴール前の都倉もよりフリーになりやすくなる。
まずCB1枚を引っ張れれば少しずつギャップが生まれる

1.5 山が動き左足が唸る


 そして41分の甲府の先制点も、それまで狙っていた形とはやや異なるが、札幌の5バックから3枚のCBのが動かされたことでバランスが崩れたことが引き金となった。中盤での競り合いからボールを拾ったのは甲府の小椋。この時札幌は菅がポジションを上げていて、福森が小椋を捕まえに出ていたことで後方には横山とミンテの2枚。
 甲府は堀米とウイルソンの2トップが小椋の前で動き出すが、ボールサイドの堀米はサイドのスペースに斜めに走ることで横山を釣り出す。札幌はこれで中央にミンテしかいなくなるので、急いで福森、荒野と中盤の3枚がプレスバックして最終ラインの枚数を確保しようとする。
 これ自体は悪くないのだが、札幌は前節の広島戦でも怪しかったのが、サイドをえぐられて最終ラインの選手が釣り出された時に、中盤の選手が全員最終ラインに吸収されてしまって相手の2列目の選手のケアが甘くなる。広島戦ではミキッチの縦への仕掛けからマイナスの折り返しでシャドーの選手がフリーになる状況が頻発していた。
堀米のダイアゴナルランで横山が釣り出された

 本職ではないCBのミンテのクリアが中途半端だったことや、兵働の見事なボレーシュートなど個人のプレーによるところが大きい失点でもあったが、そのプロセスを見ていくとそれなりに再現性のある、今後ケアしなくてはならない形からの失点だったとも思う。

2.後半

2.1 出鼻を挫かれる

1)山を動かす役割は都倉


 後半最初に仕掛けたのはやはり札幌。キックオフ直後の最初の攻撃で仕掛けてきたのが、左サイドの3枚…福森・兵藤・菅が右回りに旋回するかのようなポジションチェンジで兵藤が最終ラインに落ち、福森を押し出すプレー。
左の3枚の旋回

 これによって福森を安全に高い位置に押し出すと、菅と都倉が入れ替わるように菅が中央、都倉がサイド方向に走り出す。この都倉の動きは、前半の記述でジュリーニョに必要だと指摘した動きで、やはりこのサイドのスペースへのランニングによって甲府のDF新里が釣り出される。そして都倉が空けた中央に近いレーンには菅が走りこみ、ジュリーニョは中央やや低い位置でからゴール前に走りこむ。都倉からの折り返しは菅やジュリーニョに渡らなかったが、前半足りなかった要素を補うプレーを早速見せていく。
都倉が新里を引っ張りジュリーニョが中央で待つ

 ただ気になるのは、前線で本来セカンドトップとしての仕事を期待しているであろうジュリーニョの役割を都倉が担っていて、結局それだとジュリーニョをピッチに立たせておく(FWで起用する)意義は何なのか、ということになる。

2)またもセットプレー


 しかし札幌がいい攻めの形を続けて見せた直後の50分、甲府はやはりFWの堀米がサイドの深い位置に流れてボールキープを試み、コーナーキックを得ると、一度クリアされて蹴り直しとなった2回目で、兵働のクロスをファーサイドで横山のマークを外したリマが右足ジャンピングボレーで合わせて追加点。札幌は第3節のセレッソ大阪戦から3試合連続となるセットプレーからの失点を喫してしまう。
 札幌はセットプレーをマンマークで守っていて、甲府に対するマッチアップは都倉がウイルソン、横山がリマ、宮澤が新井、荒野が新里を担当している。セレッソ戦でヨニッチを離してしまい失点の原因を作ったミンテはストーンに置くなど、四方田監督も試行錯誤しているところだと思うが、3バックを採用する通常のチームであれば、CB3枚で一定水準のマンマークでの守備能力を持つ選手を確保できるところ、本来MFであるミンテ・横山と福森の3枚だと、こうしたセットプレー等におけるゴール前での弱さが気になるところでもある。
マーカーもストーンもサイズは十分にあるが

2.2 ゴール前にバスが止められる

1)バスを止める甲府


 2点のリードを得たことで、甲府は事実上、リスクを負って攻撃を仕掛ける理由がなくなる。するとホームチームは札幌にボールを持たせた状態で、最終ラインを自陣ペナルティエリア付近に設定し、5-3のブロックを築いて攻撃を受けようとする。この状態になると札幌は後方からほぼノープレッシャーでボールを持てるので、横山から始まり福森⇒菅とサイドに張るウイングバックまではボールが行き渡る。しかしそこからの展開は、それまでの時間帯以上にライン間をコンパクトにした甲府のブロックが都倉とジュリーニョを封鎖しているので、縦パスを通すことは不可能、また菅が仕掛けようとするなら、守備に専念する松橋が徹底マークで封じ込む。

2)わかっていた宮澤と兵藤


 このようにゴール前に「バスを止められた」場合の対応策は、ピッチの横幅を最大限に使って横パスでブロックを動かし、相手ブロックに綻びを作ることが重要となる。見たところ宮澤や兵藤はこのことを十分に分かっていた選手で、特にアンカーに入っていた宮澤は、甲府の2トップは殆どプレスバックしてこないのでアンカーのところで問題なくボールが持てる、宮澤経由でサイドチェンジが容易にできることを認識していた。
 菅から兵藤経由で宮澤が右サイドにサイドチェンジをすると、1回目は甲府も5-3ブロックがスライドして対応するが、これを2回、3回と繰り返すと、徐々にスライドでの対応が難しくなり、特に中盤の3枚のところでボールサイドに殆ど寄せられなくなる。
コンパクトなブロックをサイドチェンジを使って揺さぶる

3)同じ絵を描けない若者


 しかし宮澤からのサイドチェンジを右サイドで待っている荒野や前寛之に、こうした意図が伝わっていたかというと微妙なところで、例えば前寛之は下の図のように、甲府のブロックが広がりジュリーニョへの縦パスのコースが復活しつつある中で、都倉への放り込みを選択してしまう。これでは結局空中戦勝負となってしまい、ブロックを動かして広げたことも意味をなさなくなる。
 また荒野は前寛之に対応した阿部の裏にできているスペースを察知しておらず、わざわざ長い距離を走って前寛之をオーバーラップしていたが、ここは下の赤破線のように前寛之の内側をインナーラップすれば、最短距離でDFの背後を突ける。
 このようにピッチをワイドに使うこと自体は狙いとして感じられたが、崩しのところで有効なアプローチができず、引いて守る甲府を助けてしまうことになっていたと思う。
ブロックが広がってくるが意図のない放り込み等で有効に攻められない

2.3 終盤の展開


 札幌は61分に前寛之→内村に交代。投入から45分程度しかプレーしていない前寛之を下げたのは、先の項で図示したように、前後分断の5-3-0-2のような陣形で守っている甲府相手に、中盤3枚は不要と判断したということだったのか。それとも単にピッチ上の選手の中では最もシュート、ドリブル、ラストパスといった特徴を持たない選手だったからなのか。
 結果的には、前寛之を下げて中盤の枚数を減らし、札幌のFW陣で唯一といっていいほどオフザボールで勝負できる内村を投入したことで、投入直後の数分間は得点の期待値が高まった印象はある。
 ただその後、甲府が71分に堀米→ドゥドゥ、73分に阿部→島川とカードを切り逃げ切りを図る中で、特にドゥドゥとウイルソンの2トップとなり、前がかりになる札幌の3バックの背後をよりシンプルに突こうとすると、甲府だけでなく札幌もロングボール主体の大味な展開となり、せっかく投入した内村にもなかなかボールが入らないようになっていったと思う。
 81分に札幌はジュリーニョ→小野。小野は当初トップに近い位置…ほぼジュリーニョと同じような役割のイメージでゲームに入ったと思われる。ただこの時間帯になると、札幌のボールが循環しなくなったことで甲府は再びブロックを閉じていて、小野に使わせたいバイタルエリアのスペースは消失していた。結果、小野はまずブロックの外で受けてブロックを広げる作業からやり直し。都倉の頭も使いつつラスト10分で攻勢に出るが、得点は奪えず2-0で甲府が勝利。

3.雑感


 後々6ポイントゲームになることも想定すると、アウェイで最低限勝ち点1を、という考え方もできたと思うが、思った以上にアグレッシブなゲームの入りだった。それ自体は悪いことではないが、やや準備不足なオフェンスに終始した結果、ワンチャンスをものにされてしまった。

2 件のコメント:

  1. 読みました(´・ω・`)ショボーン 
    試合自体は、映像で後半の2-0になった少し後から観る事ができましたが、「うーん・・・。」な感じ。
    攻撃に厚みないし、ちょっときついなー。怪我人の方々早く帰ってきてください(切実)
    守備に関しては、バタついた時のMFのディフェンスラインへの吸収は昨年からも見かけましたけど、J1では相手が強いこともあってか、その回数も増えてかなり気になりますね。自信もって変に相手を過大評価しないで、落ち着いてしっかり守ってほしいなー(まあ、それが難しいんだけどね)
    いろいろ試行錯誤してるところだろうけど、試合は待ってはくれないので今後強いといわれるチームとの対戦が続きます。絶対勝てないなんてことは無いし、気持ち強くもって選手達には頑張って欲しいですー。あんまり気持ちが大事とか言うの好きな方じゃないんだけど、むしろ嫌いなんだけどwww最初から負けると思ってたら勝てるもんも勝てなくなるので、我々も気持ちを強くもって応援しましょう。
    仕事疲れ取れてなくて文章滅茶苦茶だな・・・。今日はこのへんで・・・。
    またのー( ・ω・)つ≡つつ

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    1. >にゃんむるさん
      私もリアルタイムでは丁度その時間帯から見ました。攻撃についてはダメな時の5-3-2というか、前でタメが作れない、スペースもない中でインサイドの2人が攻撃参加できないので、2列目の役割を果たせない感じはありましたね。
      あとは思った以上に甲府が亀だったというか、もう少し前に出てきてくれたら菅が裏を突いたりとか、ピッチに送り出したメンバーでやれることもあったかな、という印象です。

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